2014.10.27
ひみつのかくし場所に保存しているぼくの猫カレンダーによれば、
それは2004年9月13日の月曜日だったことがわかる。
その日、ぼくらがいつものように羊のにおいのする納屋で
楽しく遊んでいると、おかみさんがお客さんを連れてやってきた。
そして、2人はぼくらをながめながらなにやら相談している。
聞くともなしにぼくの耳に入ってきたのは、こんな会話だった。
「ほら、あれがおなかの白いやつで、あ、あのねえ、
むしろ2ひきいっしょのほうが、勝手に遊んでてくれるからさあ、
留守のときなんか、楽かもしれないよ?」
「ええ~~~?! 2ひきいっぺんに~~~?どうしようかなあ…」
「ほら、たとえば、しましまのこいつ。こいつはこうしていつまでも1人で遊んでるんだ、かわいいよ。
どう、いっしょに?」
なんの話なのかはさっぱりわからなかったけれど、
おかみさんとお客さんの会話そのものは聞き取れた。
なぜかといえば、ここはオランダの農家で、ふだんよく耳にするのは
もちろんこの国の国語であるオランダ語なのだが、
おかみさんはオランダの農家にお嫁入りした日本人で、
ぼくらは生まれながらにしてオランダ語と同じくらいたくさん、
日本語の日常会話を聞いているからだ。
おかみさんのところには、よく日本人のお客さんがたずねてくるし、
そうでなくてもおかみさんは猫が大好きだから、
ぼくらに日本語で話しかけたり、日本のお話を読んでくれたり、
歌を歌ってくれたりもする。
オランダ語と日本語とはかなり違う言葉だけれど、
猫だってこうすればりっぱなバイリンガルになれるという一例として、
国際猫の育成をめざす教育機関などは、大いに今後の参考としていただきたいものだ。
それはさておき、お客さんは、どうやら、ぼくとぼくの兄弟を猫養子にすると決めたらしい。
おかみさんは、お客さんがぼくらを連れて帰るためのしたくを始めた。
六角形のきれいな帽子の箱にナイフの先でブスブスと空気穴を開け、
箱の底にはお里のにおいのしみこんだバスタオルを敷いて猫キャリーの代わりをこしらえてくれた。
おまけに、お客さんには、裏の畑で収穫した枝豆と栗かぼちゃもおみやげに持たせて、
なんと気のきくおかみさんなのだろう。